なぜ日本は長寿企業が諸外国に比べ各段に多いのか

8/8(水) 11:55配信

SankeiBiz

 日本は経済活動を活性化させるべく、新規起業を促進する政策を現在推進している。起業率が上昇し、若くて革新的な企業が増えることを期待したい。一方、日本は長寿企業の数が国別では世界一多いといわれている。世界で最も古い企業は西暦578年に創立された日本の金剛組という寺社建設の会社で、実に1440年存続している企業である。日本最古の歴史書とされている古事記が編纂(へんさん)された年(712年)よりも130年以上前に創業した超長寿企業である。(JPリサーチ&コンサルティング顧問・杉山仁)

 日本には100年以上続いている長寿企業が1万5000社以上あり、国別で2位はドイツの1000社以下という統計がある。別の統計では、創業200年以上の企業は世界で5586社あり、このうち56%が日本に集中している。

 では、なぜ日本には長寿企業が諸外国に比べ各段に多いのか。これにはいくつかの理由が考えられる。

 一つは平和が長く続いたことであろう。日本では全国民を戦火に巻き込む大規模な戦争は極めて少なく、戦争の惨禍が全国に及んだのは第二次世界大戦の末期、米軍による本土空襲が本格化してから1年弱の間にすぎない。この間を除き、日本の長い歴史で、全土に戦火が広まり、全国民が逃げ惑ったということはない。戦国時代の合戦は武装集団同士の局地的な戦闘で、民衆全体に被害を及ぼすものではなかった。また、海に囲まれていたため、異民族による全面的な侵攻と殺戮(さつりく)はなかった。

 これに対し、例えば13世紀の蒙古帝国の侵攻では、中央アジアの各地域は徹底した殺戮と破壊の結果、経済発展が数百年の間滞ったといわれている。異教徒や異民族と地続きのユーラシア大陸では、戦闘は民衆全てを巻き込んだジェノサイド(皆殺し戦争)となるのである。

 17世紀ヨーロッパの宗教戦争である三十年戦争では、住民も殺戮の対象となった結果、現在のドイツに当たる地域では、人口が3分の1に減少したという。

 こういう大規模な戦乱が続くと、社会は断絶し、企業活動も当然のことながら継続できなくなる。平和が何千年も続いたことが、日本に長寿企業が多いことの要因である。

 2つ目は、企業活動が投機を自制していることである。歴史の長い日本企業には、例えば大手財閥の家訓のように本業に徹し、暴利や投機を戒める行動原則が浸透している。この結果、景気循環の波に大きく左右されず生き残ってきたのである。平成バブルの時代に投機に走った新興企業は、バブル崩壊とともに、消え去ったことは記憶に新しい。

 3つ目は、これは筆者の仮説だが、日本人には永続性そのものを尊ぶという考えがあるのではないかと考えている。国歌である「君が代」には「千代に八千代にさざれ石の巌となりて…」という歌詞があるが、これは国家社会の永続性を尊び、それを願うという思想に基づくものであると考えられる。

 日本企業もまた利益の短期的増大よりも長く存続することに価値を置いているのではなかろうか。永続性に価値を置いているが故に、日本企業の経営姿勢は短期視点ではなく長期視点に基づいた経営になり、これがひいては社会の安定性と永続性の一つの要因となっていると考えられる。日本に長寿企業が多いということは、日本社会が平和を維持し、投機を控え、長期視点で運営されているということであり、これが日本企業の競争力の源泉となっていることを認識すべきである。

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【プロフィル】杉山仁

 すぎやま・ひとし JPリサーチ&コンサルティング顧問。1972年一橋大卒、旧三菱銀行入行。11年間の米英勤務時代を含め、海外M&Aと買収後の経営に経験が長い。著書に『日本一わかりやすい海外M&A入門』。今年3月に経済産業省が発表した「我が国企業の海外M&A研究会」のリポート作成にも参加している。69歳。東京都出身。



引用:なぜ日本は長寿企業が諸外国に比べ各段に多いのか