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今こそ非集権的な組織を作り上げていく時だー」。そうコインテレグラフに対し語ったのは米マウンテンビューに本拠を置く技術スタートアップ「タラクサ (Taraxa)」のスティーブン・プー代表だ。タラクサではプー氏を中心に米名門スタンフォードやプリンストン大学出身の技術者が集まり様々なデバイスをつなぐIoT(モノのインターネット)に特化したパブリック・ブロックチェーンを開発。近年、金融機関や大手IT企業におけるガバナンスの綻びが露呈しつつあるのを背景に、まずはマシン間で究極の「自律組織」を作り出そうとする野心に溢れたプロジェクトだ。日本市場での動きを活発化する同社に話を聞いた。

大企業主導のIoT普及が危うい理由

日本でIoTといえば思い浮かぶのがソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の壮大なビジョンだ。孫氏は3年前に英半導体設計大手アームを3兆3000億円以上で買収。翌年にはIoTデバイス等から取得されるデータを一番得た者が勝つとし「ありとあらゆるIoTデバイスを1兆個つなげる」と高らかに宣言している。

ところがIoTが普及するためにはそうした夢を語る「大企業」に由縁する多くの課題が残されている。ネットワーク運営社が単一障害点となってしまうセキュリティ上の問題の他、データやその利活用履歴の信ぴょう性をどう保証するかという問題。そもそも企業側は多くの場合データ囲い込みを志向しており、競合他社と連携して巨大なIoTネットワークを形成するインセンティブはない。

また孫氏が展開する「半導体を押さえてデータを押さえる」というロジックも、企業や政府がIoTに繋がったデバイス中から勝手にデータを取り出すだせる「バックドア」を連想させるので、中国の通信機器大手ファーウェイが各国から国防上の理由で叩かれる今日では成り立たなくなっていくだろう。

Taraxaは「本当に使える」IoT向けパブリック・ブロックチェーンだ

そこでタラクサが注力するのはネットワーク・プロトコル部分の革新だ。分散コンピューティングの世界的権威であるモーリス・ヒーリー ブラウン大学教授の論文に着想を得、IoTネットワークとして「本当に使える」ブロックチェーンの開発に取り組む。(ちなみにヒーリー教授はタラクサの顧問に就任している。)開発チームにはスタンフォード大学・プリンストン大学等の電子工学博士号を有する精鋭が集まる。

これまでもIOTAやVeChain等、IoT向けを標ぼうするブロックチェーンはあった。だが取引処理能力・低遅延性・様々なコマンドを並行して実行する能力等、IoTに求められる性質を追求していくと「非集権性」が犠牲になることが課題だった。タラクサが目指すのは、星の数程ある世界中のデバイスが同時にネットワーク上で異なった動作をし、データのやり取りをしても問題なく動作するパブリック・チェーンだ。そのようなブロックチェーンは今、タラクサ以外に存在していないといってよい。

そのためタラクサには、ビットコインのような単一チェーンにはない多くの新たな革新がつまっている。まず取引の高速処理を可能にする「ブロック有向非巡回グラフ(BlockDAG)」というデータ構造の他、取引結果を確定する「ファイナリティ・チェーン」を敷く。

さらに計算資源のムダを最小限にする「ファジー・シャーディング(Fuzzy sharding)」、取引実行の遅延を最小化する「推測的並行性(Speculative concurrency)」、ネットワークを自律的かつリアルタイムに適応・進化させる「適応性プロトコル」等といった仕組みを取り入れ、ネットワークの処理性能と自律性をとことん追求している。

詳細はホワイトペーパーに詳しいが、技術に詳しくない人は「タラクサはマシン間ネットワークという究極の自律組織を成立させるブロックチェーンを、分散コンピューティングの観点から根本から考え抜いているプロジェクト」と認識しておくとよいだろう。

日本市場に照準  経済産業研究所 RIETI と共著も

タラクサは現在、開発を進めるブロックチェーンの利活用について日本市場に照準をあてる。企業がIoTと接続する「モノづくり」に積極な上、米中と比べて規制もクリアだからだ。「日本で面白い社会実装例を作れると見ている。規制当局も好意的だ。」(プー氏)

行政との対話も進んでいる。昨年(2018年)には経産省と連携する独立行政法人経済産業研究所(略称RIETI)が主宰した「ブロックチェーン技術の将来性に関する研究会」に参画。2019年9月には同研究所との編著も出版される予定で、日本の官公庁や企業との連携に前のめりだ。

さらに国内最大のクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」や「あすかアセットマネジメント株式会社」の取締役会長である谷家衛(たにやまもる)氏もアドバイザーとして参画。谷家氏は日本で初めてのオンライン生命保険(ライフネット生命)や日本初のロボアドバイザー「お金のデザイン」等も立ち上げた起業家だ。日本市場における知見をもとに、タラクサの日本展開について助言を行っている。

ブロックチェーンは「非効率な産業分野」にビジネスチャンス

とはいえブロックチェーンの社会実装にはまだまだ懐疑的な声が多い。ほとんどの生活シーンでブロックチェーンは必要ないという声も説得力があるのが現実だ。これに対してタラクサのプー氏は元戦略コンサルタントらしい言葉で解説している。

「ブロックチェーンを使ったプロジェクトについての費用便益分析(コスト=ベネフィット分析、実施主体の利益及び社会便益を考慮して計画を比較評価する手法)をする際に大事なのは、『信頼の仕組みにおけるギャップ(隙間・欠陥)』が原因で機会損失をしているかどうかだー」。

そこで目を付けるのが駐車スペースだ。「日本では自動車の駐車場を見つけるのも、貸すのも、駐車価格形成も非効率」というプー氏は、現在開発中の安価小型センサーを各駐車スペースに取り付け、流動化させることを目論む。「トークンを使って1時間単位で個人宅の駐車スペースを借りたり貸し出すことができるようになる」。確かに自動運転の時代に自律的パーキング市場が登場する、というのは納得のいくストーリーだ。

そこで使われるのが商業利用に耐えうる処理性能とセキュリティを持ったタラクサのブロックチェーンになる、というわけだ。

これからは企業の権力が個人に分散していく

プー氏の構想するブロックチェーン基盤のサービスはこれまで株式市場の寵児だった「シェアリング経済」勃興の流れを汲むものだ。2008年の金融危機後に本格的に勃興した(自動車配車サービスの)ウーバー、(共同オフィスの)ウィーワーク、(フリーランス職募集サイト)アップワーク等だ。プー氏はそこに根本的な変革を見る。

「例えば米国の過去100年の歴史を見ると、景気回復時に契約社員の数が減り正規雇用が増えるサイクルがあった。ところが現在は景気回復局面でも契約社員の数が上昇しているのだ。今まさに(雇用や働き方の)革命が起きている真っ最中にあるといえる。」(プー氏)

プー氏が痛烈に批判するのは大企業運営の弊害だ。「過去に大企業で働いた経験から言えるのは、企業は大きくなればなるほど失敗する可能性が高まる。非効率になり、イノベーションを生まなくなる。企業はたまに良い選択をすることもあるがそれはまぐれで、ほとんどの場合が間違った行動をとる。」ライドシェア業界の王者だったウーバーでも不祥事が明るみになりCEOが辞任に追い込まれるといったことが起きているのは事実だ。

「我々は依然として集権的なインターネットを使っている。だが現在潮流は逆流している。これまでの数十年は(企業の)集権化が進んだが、今後の数十年は権力の分散が進んでいくだろう。」(プー氏)

ひたすらパブリック・チェーン構築にコミット

米国では現在、グローバルIT業界の権化であるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の解体論も出るほど独占的テクノロジー企業への風当たりが強まっている。皮肉なことに、その発祥の地であるシリコンバレーは今、フェイスブックによる仮想通貨の発行で盛り上がる。

これまでシリコンバレーにおいて「ブロックチェーン企業」であることはネガティブに捉えられがちだった。だがフェイスブックの仮想通貨事業参入・個人のプライバシー重視路線への展開を皮切りに、より多くの優秀な技術者が再び「世直し」の理想をもってブロックチェーン事業に参画してくるだろう。

タラクサもあくまでパブリック・チェーンの構築にフォーカスしている。特定の企業やノードが大きな力を振るう閉じられたプライベートチェーンでは真の「自律組織」は作れないと考えるからだ。また現時点でトークンの発行はせず、タラクサ財団という非営利団体が開発と普及を推進。トークン経済についても深い思索をした上でデザインしていくという。

我々は非中央集権化の真の信奉者だー」。取材中そう繰り返すプー氏に、シリコンバレーでおきつつある新たな「うねり」を感じだ。 

参考資料:https://jp.cointelegraph.com/news/silicon-valley-taraxa-leads-blockchain-iot-ecosystem-centric-applications-and-organizational-theory 

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