社会規範と市場規範、より良い決断、期待と希望

著名な行動経済学者、ダニエル・カーネマンさんの「ファスト&スロウ」が余りにも面白かったので、同じく著名な行動経済学者であるダン・アリエリーさんの「予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」(2013)」を読んでみました。

前半は如何に人が経済学的合理性ではなく感情で物事を判断をしているかということを小銭を用いた実験で示していました。かなり退屈で読むのを何度も断念しかけましたが、後半は何やら哲学めいた話が多く出てきてそれなりに楽しめました。

例によって気になったところをまとめます。

 

スポンサーリンク

 社会規範と市場規範の使い分け 

社会規範と金銭の規範(市場規範)を混合すると、思いもよらぬ望ましくない事態が起こりうる。例えば、デートで素晴らしい夕べを過ごした後で相手を家に送り届ける時、デート代にいくらかかったか絶対に口にしてはいけない。熱いお休みのキスが欲しいなら、そんな話をするのは得策ではない(私としては実験としてやってみることもおすすめしないが、もしどうしても試して試したいという人がいたら、是非結果教えて欲しい)。言うまでもなく、デートというのは、金銭の規範を持ち出すことで人間関係が台無しになる様々な領域の一つにすぎない。危険はあちこちに潜んでいる。

 

 人生のより良い決断に必要なこと 

ある感情の状態の時、別の感情の状態を考えるのは難しい。いつもそうできるとは限らないし、痛みが伴うこともある。しかし、十分な情報を得た上で決断するには、向こう側にいる時の感情の状態を何とかして経験し、理解しなければならない。人生における重要な決断をするには、この隔たりを埋める方法を身につけることが不可欠だ。

私たちは、よその町に引っ越すとき、そこに住んでいる知り合いにどんなふうか尋ねもせずに引っ越すことはあまりしないし、映画でさえ、批評も読まずに見に行こうと決めることは少ない。それなのに、自分自身の両面について知るための努力をほとんどしていないのはおかしくないだろうか。これを理解できなければ人生の様々な側面で何度も失敗を繰り返すことになるかもしれないというのに、なぜこの問題を心理学の講義のためとために取っておくようなことをするのだろう。私たちは、自分の両面について掘り下げてみる必要がある。冷静な状態と熱くなった状態を理解し、冷静な時と熱くなっている時の隔たりが私たちの生活にどう役立ち、私たちをどう堕落させるのか見極めなければならない。

 

 期待と希望とやる気の関係 

Eメール中毒は、行動主義心理学のB・F・スキナーの言う「強化スケジュール」と関連があるように思う。スキナーはこの用語を使って、行動(スキナーの実験では、スキナー箱と呼ばれる装置に入れられた腹を空かせたラットがレバーを押す)と、行動に対する報酬(餌)との関係を説明した。中でも定率強化スケジュールと変率強化スケジュールという区別がある。定率強化スケジュールでは、ラットがレバーを決まった回数、例えば100回押すと餌の報酬が与えられる(人間で例えれば、中古車販売員が車を10台売ると、1000ドルのボーナスがもらえるようなもの)。変率強化スケジュールでは、ラットがレバーを適当な回数を押すと、餌が与えられる。10回押して餌が出ることもあれば、200回押して出ることもある(中古車販売員の例では、何台かわからないけれど車を売ると、1000ドルのボーナスがもらえる)。

 

従って、変率強化スケジュールでは報酬がいつもらえるかは予想できない。一見すると、定率強化スケジュールの方がやる気が起きるし、やりがいもあると思うかもしれない。ラット(あるいは中古車販売員)は自分の働いた成果を予測するようになるからだ。ところがスキナーは、意外にも変率強化スケジュールの方がやる気が起きることを発見した。最も印象的な結果は、報酬がなくなった時の反応だ。定率強化スケジュールのラットはほとんどすぐに働かなくなったが、変率強化スケジュールのラットはその後も長い間働き続けた。

 

変率強化スケジュールは、人間をやる気にさせる場合も驚くほど効き目がある。これはギャンブルや宝くじの根底にある魔術(いや、もっと正確には黒魔術)だ。スロットマシーンをする時、いつも9回負けた後1回勝つと決まっていて、いつまで続けても同じことが繰り返されると前もって分かっていたら、どれだけ楽しめるだろう。おそらく何の楽しみもない。やはりギャンブルの楽しみは、いつ報酬がもらえるか予測できないところにあり、だから私は私たちはやり続けるのだ。

 

 Tochiの勝手な感想 

商売っ気の多い話を学生を対象にしたアンケートで、しかも小銭でやっている様な実験が多く、行動経済学って地味だし何だか信頼できないなァ・・(誰を対象にするか、どう聞くか、もしくは報酬や金額を変えたら結果はまるで違うんじゃないのかな?)。と思わされることが多かったですが、それでも確かに商売、特に広告などの分野にはそれなりに役に立つことなのかもしれません。

また、進化には長期間に及ぶ安定的な環境が必要であり、急速に発達した現在の文明に私達の遺伝子は上手く適応できていません。このことが多くの人が現代の社会生活に強いストレスを感じる原因になっているであろうことは想像に難くありませんし、何度も繰り返してしまう判断ミスの様な非合理性が生じてしまう最大の要因でもあると考えられます。

この様な遺伝子の不適合による行動や感情の不合理を客観的に捉え、可能であればストレスを低減する、ないしは合理的なものに修正していくためには、行動経済学の様な一見特異な切り口が不合理な私達には必要なのかもしれません。

 

結論:うむ、ムズい!

コメント